水彩技法と紙の相性

油彩画の盛ったり削ったりする描き方を「彫刻」に例えるならば、水彩画の表現は「ガラス細工」に似ています。
偶然の色の混ざり方や透明色の響き合いが最大の魅力なのです。
油彩画では絵の具の色彩と密度、マチエールでモチーフの質感を表現できますが、透明水彩ではほとんど色彩のみで表現するしかありません。
そこで水の性質を活かしたさまざまな技法を駆使していくのです。色のにじみ、むら、かすれなど水と絵の具が織り成す表現が水彩画の醍醐味でもあります。
これらの表現を狙って出すには経験ももちろん必要ですが、紙と技法の相性の良し悪しも理解していなければなりません。
ウォッシュ
Wash
水彩技法と紙の相性 水をたっぷりと含ませて広い面をうす塗りする技法。あらゆる水彩技法の中で一番基本となる技法です。目の粗い紙で保水力のある紙=ムラなく塗れます。
ウォッシュでムラなく塗りやすい紙
アルシュ荒/
EXホワイト
ワトソンなど
ドライブラシ
Dry Brush
水彩技法と紙の相性 水気を切った(抑えた)状態で筆を走らせたタッチのことを指します。(乾筆)かすれてザラザラとした質感が得られます。目の粗い紙、サイズ(にじみ止め)の効いた紙が適します。
ドライブラシが効果的な紙
アルシュ荒
EXホワイト荒目
ワトソン
マーメイドリップルなど
ウェット・オン・ドライ
Wet on Dry
水彩技法と紙の相性 乾いた色の上にまた色を重ねて塗る技法。(重色)パレット上で色を混ぜるより彩度が落ちにくく、深みのある色合いが得られます。
下の色が溶け出しにくい紙
アルシュ
・タッチ2など
色を重ねても発色が落ちにくい紙
EXホワイトなど

ウェット・オン・ウェット
Wet on Wet
水彩技法と紙の相性 濡れた紙の上に色を置く技法です。乾いていない色に水や別の色を垂らしこむ方法もあります。にじみ効果が得られます。保水力のある紙=色がよく伸び広がります。
色がよく伸び広がる紙
アルシュ荒/細
EXホワイト荒目/ 細目
ワトソンなど
グラデーション
Gradation
水彩技法と紙の相性 ウォッシュの際に途中から絵の具の色を変えたり薄めたりすることでグラデーション(諧調表現)が得られます。保水力の高い紙ほど綺麗なグラデーションが作れます。。
ムラなくぼかしやすい紙
アルシュ荒/細
EXホワイト荒目/細目
ワトソンなど
リフティング
Lifting
水彩技法と紙の相性 塗った色が完全に定着しないうちにティッシュや海綿などで軽く表面を抑えて色を抜く技法です。リフト、リフトアウトとも呼びます。乾きが遅い紙が適します。(lift:取り除く)
乾き方が穏やかで色を抜きやすい紙
EXホワイト荒目/細目
ワトソンなど

ハード・エッジ
Hard Edge
水彩技法と紙の相性 塗った面の縁にできる中心より色の濃くでた線のことをいいます。水をたっぷり含ませると意図的に作ることができます。紙によってできやすいものがあります。
エッジが出やすい紙
ワトソンなど
バックラン
Back Run
水彩技法と紙の相性 最初の色が少し乾いた段階で別の色や水を接触させると絵の具が逆流し細かく波打つ境界線ができます。目の細い紙や渇きの早い紙はこの現象が起こりやすいです。
バックランを起こしやすい紙
・タッチ2
マットサンダース
・画用紙など
スパッタリング
Spattering
水彩技法と紙の相性 ブラシをはじいて絵の具を斑点状(はんてん)、粒状に散らす技法。
(スプラッタリング)複雑な質感表現が可能です。
スパッタリングに向く紙
・どんな紙でも使えます。

スクラッチ
Scratching
水彩技法と紙の相性 カッターなどで紙の表面を引っかいて色を削り取る技法。ぬれた場所を削り、そこに着色すると面白い効果が得られます。
ハードな削りにも耐える紙
アルシュ
EXホワイトなど

Salt
水彩技法と紙の相性 ウォッシュを施した上に塩を振りかけるとその部分だけが色が抜け、模様ができます。絵の具の種類や濃さ、紙の保水力によっても効果が変わってきます。
模様が大きく広がりやすい紙
アルシュ荒/細
EXホワイト荒目/細目など
マスキング
Masking
水彩技法と紙の相性 白く抜きたい部分をあらかじめマスキング液かテープで保護してから色を塗る技法です。表面強度の高い紙を使用する必要があります。
表面強度の高い紙
アルシュ荒/細
EXホワイト荒目/細目
ワトソン
・タッチ2など

水彩技法習得のコツ ~水彩技法と紙との関係性~
水彩技法のコツは「絵具を運ぶ水をどうコントロールするか」という点に尽きます。水の量、乾き方、タイミングによって様々な表情を見せてくれます。これに一番関わる要素は紙の保水力です。乾きの早い紙はコントロールが難しく急かされるし、遅い紙は長い時間をかけて表情を変えていくので辛抱が必要です。
紙の特徴を捉え、個性を活かすことが上達のカギとなることは間違いありません。紙を知って技法をマスターしましょう。
情報提供はmuseさん
この記事の全文章、画像は株式会社museさんのご提供です。museさんは美術紙の総合メーカーで、ホームページにはたくさんの資料が掲載されていますので興味のある方は是非ご覧ください。
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